先に白状しておくと、私はいま、FIRE(経済的自立と早期リタイア)を目指していません。
いまの仕事は楽しいですし、収入にも大きな不満はありません。「一刻も早く会社を辞めて自由になりたい」という渇望は、正直、ないのです。
——ただし、「いまは」です。
実は、私が2015年に投資を始めたときの動機は、突き詰めれば「いまの会社を辞めたい」でした。当時の年収は300万円台。家賃を払うと手元にはわずかしか残らず、「このままでは一生この生活か」という焦りだけがありました。あの頃の私は、FIREという言葉を知る前から、FIREを渇望していたのだと思います。
あれから10年。インフルエンサーの推奨銘柄に飛びついて1週間で50万円の含み損を抱えたり、身の丈に合わない金額を突っ込んで30秒で10万円を溶かしたり——散々な失敗を経て(この遍歴は別の記事に詳しく書きました)、運用額は約1,000万円になり、そして皮肉なことに、「辞めたい」という気持ちのほうが消えていました。
それでも私は、資産形成をやめていません。そして先日、「自分が働かなくてよくなる日まで、あと何年か」をあらためて計算しました。FIREを目指していないのに、なぜ計算するのか。この記事は、その理由の話です。
目次
- FIREの定義はシンプル。「生活費の25倍」
- 4%ルールとは何か、なぜ25倍なのか
- 私の実例:資産1,000万円・月10万円積立だと、あと何年か
- 意外な事実:昇給より節約のほうがFIREを早める
- FIREは「目的」ではなく「保険」——サイドFIREという距離感
- 焦りは最大の敵——10年の失敗から言えること
- まずは自分のカウントダウンを見てみる
FIREの定義はシンプル。「生活費の25倍」
FIRE(Financial Independence, Retire Early)は「経済的自立と早期リタイア」の略ですが、その達成条件は驚くほどシンプルに定義できます。
年間生活費の25倍の資産を持つこと。
たとえば月の生活費が25万円なら、年間300万円。その25倍=7,500万円がゴールラインです。「7,500万て、無理やん」と思ったかもしれません。私も最初に計算したとき、同じことを思いました。でも、この数字には2つの希望があります。1つは、生活費を下げればゴール自体が下がること(後述します。これが効くんです)。もう1つは、ゴールまでの距離は複利が縮めてくれることです。
4%ルールとは何か、なぜ25倍なのか
「25倍」の根拠は、米国の研究に由来する「4%ルール」という経験則です。資産を株式・債券で運用しながら毎年4%ずつ取り崩しても、運用益がそれを補い、資産が長期にわたって枯渇しにくい——という過去データに基づく検証結果(トリニティ・スタディ)から来ています。
年間生活費が資産の4%以内に収まる=資産が生活費の25倍あればいい、という逆算です。
ただし、正直に書いておきます。これは米国株の過去実績に基づく経験則であり、将来の保証ではありません。インフレや暴落のタイミング次第では想定より早く資産が減るリスク(シークエンス・オブ・リターン・リスク)もあります。私自身、投資を始めて最初の3年はずっとマイナスでした。相場は、計画どおりには動いてくれません。だから4%ルールは「精密な設計図」ではなく「距離を測るモノサシ」として使うのが正しい付き合い方です。
私の実例:資産1,000万円・月10万円積立だと、あと何年か
一般論だけでは実感がわかないので、私自身の数字を出します。
現在の私の運用は、個別株とインデックスが半々。インデックスはオルカン(全世界株式)に月10万円の積立を続けています。運用資産は約1,000万円。仮に生活費を月25万円、利回りを年5%として計算すると——
フルFIREまで、あと約21年9ヶ月。
この数字を見て、私は落ち込みませんでした。前に書いたとおり、いま会社を辞めたいわけではないからです。ただ、「へえ、いま完全な自由まで約22年の位置にいるのか」と、自分の現在地が地図に載った感覚がありました。
そして、そこから条件を動かしてみると、面白いことが分かります。生活費を月20万円に抑えたら? あと18年5ヶ月。3年以上縮む。積立をあと2万増やしたら? さらに縮む。この距離は「固定された運命」ではなく、自分の手で動かせる変数の集合なのです。目指す・目指さないにかかわらず、自分がどの変数をどれだけ握っているかを知っておくのは、悪くない気分でした。
意外な事実:昇給より節約のほうがFIREを早める
その「変数いじり」の中で、直感に反する発見がありました。同じ「月1万円」を捻出するのに、2つの方法があります。
- A:昇給や副業で収入を増やし、積立を月1万円増やす
- B:生活費を月1万円下げる(浮いた分は積立へ)
どちらも積立は1万円増えます。しかし、自由になる日を早める効果はまったく違います。モデルケース(35歳・資産500万・積立10万・生活費25万・利回り5%)で計算すると、Aは約1年1ヶ月の短縮。Bは約1年9ヶ月の短縮。節約のほうが1.6倍以上効くのです。
理由は、生活費を下げると2つの効果が同時に働くから。
- 積立が増える(前に進む速度が上がる)
- ゴールライン自体が下がる(必要資産=生活費×25だから)
攻めながら、ゴールも近づいてくる。これが「FIREにおいて節約は二重に効く」と言われる理由です。もちろん収入を上げる努力に意味がないわけではありません。昇給には上限がありませんから、長期では収入増こそ最大の武器です。ただ、今日からできて、確実で、二重に効くのは固定費の見直しのほう。両輪で回すのが最短ルートです。
FIREは「目的」ではなく「保険」——サイドFIREという距離感
ここまで読んで、「で、目指してへんのになんで計算するん」と思った人へ。私の答えはこうです。
FIREまでの距離は、「働き方の自由度」の残高だから。
いまの仕事が楽しいのは事実です。でも、それが10年後も続く保証はどこにもありません。組織は変わる。事業環境も変わる。自分の心境も、家族の状況も変わる。2015年の私が「辞めたい」一色だったように、人の働く動機は思っている以上に揺れ動きます。
だから私にとって資産形成は、FIREという「ゴール」への走り込みではなく、「いつでも選び直せる状態」を積み立てておく保険です。嫌な仕事を断れる。働き方を変えられる。挑戦したいことに飛び込める。その選択肢の厚みが、資産の厚みとほぼ比例する——10年やってきて、そう実感しています。
その観点で有効なのがサイドFIREという距離感です。生活費の半分を資産収入で、残り半分を好きな仕事でまかなうスタイル。必要資産はフルFIREのざっくり半分になります。私のケースで計算し直すと、フルFIREが21年9ヶ月だったのに対し、サイドFIREなら約12年1ヶ月。生活費を20万に抑えれば9年半まで縮みます。
「あと12年で、働き方を半分自由に選べる位置に着く」——これは、辞めたいかどうかとは無関係に、知っておいて損のない情報だと思いませんか。
焦りは最大の敵——10年の失敗から言えること
最後に、これから資産形成を始める人へ、失敗した側からひとつだけ。
私の最初の3年間の失敗——インフルエンサー頼みの一括買い、身の丈に合わない金額、恐怖による狼狽売り——の根っこには、すべて「早く自由になりたい」という焦りがありました。早くゴールに着きたいから、近道に見えるものへ飛びつく。そして遠回りする。
いまの私が焦らずに積み立てられているのは、皮肉なことに「辞めたい」が消えたからでもあります。でも、当時の自分に何か言えるとしたら、こう言います。距離を測れ。焦りは、距離が見えないところから生まれる。「あと◯年◯ヶ月」という数字は、一見遠く見えて、実は焦りを鎮めてくれる。ゴールまでの距離が明確なら、今日やるべきことは「一発逆転を狙う」ことではなく、「淡々と積み立てて、固定費を整える」ことだと分かるからです。
まずは自分のカウントダウンを見てみる
ここまで私の数字で話してきましたが、大切なのはあなた自身の4つの数字——年齢・資産・毎月の積立・生活費——で測ることです。あなたがFIREを目指していても、いなくても。
おかねナビでは、この4つを入れるだけで、「働かなくてよくなる日」までの残り年月をカウントダウン表示する「FIREカウントダウン」を用意しています。このツールの見どころは計算のあとです。積立額と生活費のスライダーを動かすと、カウントダウンがその場で伸び縮みします。「積立をあと1万増やしたら」「固定費を2万削ったら」——未来がどれだけ動くかを、指先で試せます。昇給1万円と節約1万円の効果の違いも、あなたの条件で比較表示されます。
会社を辞めたい人にも、いまの仕事が好きな人にも、「自分の自由までの距離」を知る価値はあります。漠然とした「このままでいいのか」を、「あと◯年◯ヶ月」という具体的な数字に変えるところから、始めてみてください。

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